アラスカ 永遠なる生命

星野道夫「アラスカ 永遠なる生命(いのち)」

写真にも文章にも自然への畏敬と優しさが溢れている。こんな言葉とまなざしを持ちたい。

巻末の父の言葉。「動物がどこにいるか探さないとわからないような写真。道夫らしい撮り方だと思います」。小さな命と大きな自然。シンプルだけど、それを1枚で感じさせる写真家は他にいない。

苦海浄土

石牟礼道子「苦海浄土」

読み終え、言葉が出ない。水俣の話だが、ルポでも聞書きでもない。ジャーナリズムでは絶対に出来ない記録と鎮魂と告発の仕方。

苦海そのものに生きる人々の語りは、逆説的に人間讃歌ですらある。

必生 闘う仏教

佐々井秀嶺「必生 闘う仏教」

インド仏教の先頭に立つ元日本人僧。煩悩も生きる力と言い切り、アウトカーストの解放に尽くす破格の人物。

現代日本の仏教からみれば「闘い」という言葉自体が異質だが、日本でも中世に日蓮や親鸞が出てきた時はこの人のような「闘う仏教」だったのだろう。

岬・化粧他 ―中上健次選集12

「岬・化粧他 ―中上健次選集12」

「重力の都」は息苦しさを感じるほど。

谷崎の後に中上があるが、その後は無い。中上の死で日本の近代文学が終わったと言われるが、それに納得してしまうだけの作品。

スティル・ライフ

池澤夏樹「スティル・ライフ」

初期の池澤夏樹の文章は透明感という言葉がしっくりくる。文章を読むだけで気持ちが軽くなる作家はそうそういない。

日本の路地を旅する

上原善広「日本の路地を旅する」

中上健次が「路地」と呼んだ非差別部落。

元が雑誌の連載ということもあってあっさり気味だが、それでも十分読み応えがある。これで終わりではなく、路地出身の著者自身の物語や、路地それぞれの今をもっと読みたい。

中上健次「岬」

地虫が鳴き始めていた、の書き出しから続く息苦しいほどの濃密さ。

“路地”では噂こそが現実で、場所の狭さは物語の狭さを限定しない。「枯木灘」に続き、「千年の愉楽」や「奇蹟」へと広がる作品群の無限の可能性を予感させる。

文鳥・夢十夜

夏目漱石「文鳥・夢十夜」

久しぶりに読んだけど表題の二作は鳥肌もの。夢十夜の第一夜、第三夜は何度読んでもぞくぞくする。「永日小品」も素敵な小品集。