飢餓浄土

石井光太「飢餓浄土」

亡霊、祈り、祟り…貧困や戦争の中で生活する人々の見る幻。著者らしい人間らしさの記録。

最近多作な著者だが、徐々に文章から著者自身の悩みが消え、描写が小説のように饒舌になってきた印象を受ける。初期の作品にあった主観的な描写に惹かれた身にとっては少し寂しく感じる。

原子炉を眠らせ、太陽を呼び覚ませ

森永晴彦「原子炉を眠らせ、太陽を呼び覚ませ」

戦時中から原子核物理学に携わってきた研究者の14年前の提言。原子力の平和利用に理解を示しつつ、脱原発の道を探る。

太陽光という結論はいまや理想主義的すぎる気もするが、日本の原子力防災の甘さの指摘など、JCO事故以前の執筆とは思えない。

村上春樹 雑文集

村上春樹「雑文集」

タイトル通り雑多な文章の寄せ集めだけど、どれも中身があって筋が通っている。評価は様々だが、同時代の作家では最も前向きに文章の力を信じている人だろう。

放浪記

林芙美子「放浪記」

要は日記だから内容は面白くないけど、文章が素晴らしい。極貧の生活を嘆きながらも、生き生きと鮮やかな描写がそこかしこに。

“弱き者よ汝の名は貧乏なり”

すばらしい新世界

オルダス・ハクスリー「すばらしい新世界」

人間の出生すら管理されるようになった社会を描いたディストピア小説。

「最大多数の最大幸福」の醜悪さ。

今読むとちょっと冗長に感じるけど、今から約80年前、「1984」より17年前の作品というのは驚き。フォードが神で、十字架がT字架に変わったなどの設定も秀逸。

きつねのはなし

森見登美彦「きつねのはなし」

内田百閒の「冥途」のような雰囲気。具体の伴わない恐怖や焦燥感。「四畳半神話大系」のような作品の一方、こういう作品も書ける、良い意味で器用な作家だと思う。

時の輪

カルロス・カスタネダ「時の輪―古代メキシコのシャーマンたちの生と死と宇宙への思索」

フィクションなのか、ノンフィクションなのかを抜きにしてなかなか面白い。

“あまりに自己に執着しすぎると、ひどい疲れがくる。そのような状況にある人間は、他のすべてのものにたいして、ツンボでメクラになってしまう”
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アフリカ 苦悩する大陸

ロバート・ゲスト「アフリカ 苦悩する大陸」

アフリカの抱える問題が非常に分かりやすく網羅されている。自由主義経済の万能性を信じすぎている気がするが、歴史的経験からすると、途上国が経済成長するためには弊害も含めて自由化を進めるしかないのかとも思える。

中島岳志的アジア対談

「中島岳志的アジア対談」

「アジア対談」というタイトルだが、内容は貧困や教育、宗教の問題から「保守とは何か」まで幅広い。新聞に連載されたものだが、新聞らしからぬ、読み応えのある内容。

著者は自称保守だが、右からは左と批判を受けるインド研究者。対談相手も佐藤優から吉本隆明、西部邁、藤原和博と多様で、右から左まで様々なレッテルを貼られた人たちだが、読んでみるとほぼ全員に共通する部分があり、共感できる部分がある。