三陸海岸大津波

吉村昭「三陸海岸大津波」

明治29、昭和8、35年…と繰り返し津波に襲われた三陸の記録。吉村昭の作品にしてはあっさり気味の文章だけど、収録された子供達の作文のためだけでも読む価値がある。

2度の壊滅を経て巨大な防潮堤を築いた田老町だが、今回再び町が消えた。著者が存命なら今何を書いただろう。

朽ちていった命 ―被曝治療83日間の記録

NHK取材班「朽ちていった命 ―被曝治療83日間の記録」

99年のJCO臨界事故の、事故そのものではなく被曝医療の記録。染色体が壊れ、徐々に人が“朽ちて”いく様子が克明に記されている。医療現場の凄絶さを感じると共に、人の設計図が壊れてしまった時、どんな技術を持ってしてもなす術がない無力感。

飢餓浄土

石井光太「飢餓浄土」

亡霊、祈り、祟り…貧困や戦争の中で生活する人々の見る幻。著者らしい人間らしさの記録。

最近多作な著者だが、徐々に文章から著者自身の悩みが消え、描写が小説のように饒舌になってきた印象を受ける。初期の作品にあった主観的な描写に惹かれた身にとっては少し寂しく感じる。

マタギ 矛盾なき労働と食文化

田中康弘「マタギ 矛盾なき労働と食文化」

現代の、そして最後の世代になるだろうマタギの記録。シンプルだけど、誠実な視線。

熊を狩り、釣りをし、山菜を採って山に生きていく。マタギは猟師のことではなく、ひとつの生き方。

秋葉原事件 ―加藤智大の軌跡

中島岳志「秋葉原事件―加藤智大の軌跡」

加藤の25年を丁寧にたどった一冊。現実に友人がいて交遊的な面もあったのに、少しずつ孤独の袋小路に入っていく。理解できる面もある一方、なぜ一歩を踏み出したのかは結局わからない。

まだ発生から3年だが、あれほどの衝撃をもった事件でさえ、多くの事件の中の一つになって忘れられつつある。

ユダヤ人の起源 歴史はどのように創作されたのか

シュロモーサンド「ユダヤ人の起源 歴史はどのように創作されたのか」

“ユダヤ人”の根幹を成す離散を否定する「追放の発明」と題した章が強烈。シオニストは、改宗で各地に増えた「ユダヤ教徒」を聖地を追われた「ユダヤ民族」とすり替え、歴史を創作した。

妻と最期の十日間

桃井和馬「妻と最期の十日間」

人を喪うということに向き合う看取りの日々。 宗教的な部分で、著者の考え方に違和感を感じる部分もあるが、些細なこと。真に迫った記録。

アフリカ 苦悩する大陸

ロバート・ゲスト「アフリカ 苦悩する大陸」

アフリカの抱える問題が非常に分かりやすく網羅されている。自由主義経済の万能性を信じすぎている気がするが、歴史的経験からすると、途上国が経済成長するためには弊害も含めて自由化を進めるしかないのかとも思える。

スリー・カップス・オブ・ティー

グレッグ・モーテンソン「スリー・カップス・オブ・ティー」

K2登山に失敗したアメリカ人の青年グレッグが、助けてくれたパキスタンの人々のため、山奥の村々に学校を建てる活動を始める。だまされたり、追放のファトワを受けるなど何度も窮地に陥りながらも、奇跡のような出会いを重ね、活動は広がっていく。
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