橋本治「大江戸歌舞伎はこんなもの」
江戸時代の歌舞伎はどんなものだったのか。そして、どう終わったのか。伝統芸能というと昔から変わっていないような印象を受けるが、“伝統”として確立される段階ではそれなりの変化、集約がある。
江戸期の歌舞伎は上演形態も題材も現代とはだいぶ異なっていた。歌舞伎や人形浄瑠璃の物語は筋書きも設定も理解に苦しむものが多い。毎年半年かけての曽我狂言など上演形態も現代とかけ離れている。験担ぎや興業上の要請など、さまざまなルールの中で、旧作の書き換えと模倣を繰り返して無数の新作が生み出されていく。
文化はマンネリズムの中で醸成される。芸術家ではなく職人としての劇作家。歌舞伎の前では、必然性などという近代的な考え方そのものが馬鹿らしい。