下下戦記

吉田司「下下戦記」

「苦海浄土」が人間の尊厳を奪う水俣病の悲惨さを描くと同時に逆説的な人間賛歌となっているのに対し、「下下戦記」は文学的に昇華されることを徹底的に拒否している。

部落の中で蔑まれ続け、補償金を得てからも「奇病御殿」「詐病」と非難され、訴訟派と一任派、自主交渉派と患者の立場が分裂し、認定を巡る確執が憎しみを生む。

“民衆が民衆を食う”下の下の世界で、「生きることと愛することと労働すること」を奪われた若者たち。著者は水俣の若者とともに暮らし、コミュニティが壊れ、嫉妬や憎悪、諦観…人間の負の感情が吹き出していくさまを浮き彫りにした。

3.11後の今だからこそ、あるいは生活保護や社会保障の問題が顕在化してきている今だからこそ、重い意味を持つ一冊。公害や薬害問題で結局目をそらしてしまったことから、今再び目をそらそうとしている。

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