中上健次「奇蹟」
精神病院に収容されたトモノオジと、その幻覚に現れるオリュウノオバの対話を通じて語られる「路地」の最後の物語。
人があぶくのように生まれ消えていく路地で、若死にが宿命づけられた中本の血と、「ホトキさん」すら超越する産婆オリュウノオバのまなざし。
高校の頃に初めて読んだ時には気にしなかったが、この作品は亡くなる3年前の出版。早世の作家だが、岬、枯木灘、鳳仙花、千年の愉楽、地の果て至上の時、日輪の翼と続き、イクオ外伝を含むこの作品で路地の物語を書ききって亡くなったのだと思う。戦後日本文学の極点の一つ。