スミヤキストQの冒険

倉橋由美子「スミヤキストQの冒険」

架空の政治思想「スミヤキズム」を信奉する青年Qが、革命を起こすことを意図して孤島の感化院に赴任し、そこで院長やドクトルら奇妙な人物に出会う。頭でっかちなQは理論武装で現実に立ち向かい、周りの人間や状況に翻弄される。

ここに描かれる「スミヤキズム」は、現実のマルキシズムやトロツキズムを容易に連想させる。だとしたら、院児の肉を食料とする感化院の姿は権力や資本主義のメタファーか。確かに、資本主義は不条理でグロテスクで、トロツキズムは滑稽だ。

しかし、著者自身はこうした読み方を否定する。

あとがきでは、これはトーマス・マンの「魔の山」を意識した小説であり、何かの風刺や批判ではないとわざわざ記している。ただ、純粋な空想として書いたならここまで似せる必要はなかったし、小説と同様、著者の言葉も額面通り受け取る必要はないだろう。

左派思想のパロディというだけではなく、文学論など多様な読み方ができる作品で、奇妙な世界への冒険譚として読むだけでも十分に面白い。

安部公房や大江健三郎の作品と同様、いろいろと解釈するのも面白いし、解釈せずに世界にひたるのも良い。

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