筒井康隆による実験的小説。91~92年に朝日新聞に掲載された連載小説だが、投書やパソコン通信での反響をリアルタイムで物語の中に取り込んでいくという思い切った手法がとられている。
架空のオンラインゲーム内の世界と、そのゲームに熱中する人々を描いた“小説内の現実”、その小説を書いている作家と編集者、そこに影響を与える現実の読者と筒井康隆――といった多層構造によるメタフィクションとなっている。作家と編集者のパートでは、読者からの批判などが実名で取り上げられ、それに筒井康隆の分身でもある作者の櫟沢が青筋立てて反論する様子などが描かれる。
「新聞にSFを掲載するな」という読者とSFファンの対立の間で、小説の内容もSFと日常の間を揺れ動く。終盤、読者の声に応えて増えすぎた登場人物がまとめて始末されるなど、先が読めない展開が続く。
ただ著者の作品はそもそも予定調和を崩すものが多いため、決して意外性は無く、この作品も100%著者の頭の中だけで作られたと言われても違和感はない。細部も含めて、紛れもなく筒井康隆の作品という印象。
多層構造の小説内世界は、やがてその壁が取り払われて、架空のゲームの物語と、小説内の現実と、作家と編集者の話とが溶け合ってしまう。
終盤の怒濤の展開の中、我々の生きている現実でも、虚構と現実は大なり小なり互いに影響を与え合っており、その間にある壁はそれほど強固なものではないのかもしれないと思わされた。