ぴんぞろ

戌井昭人「ぴんぞろ」

表題作は、受賞作の無かった2011年上半期の芥川賞候補作。文藝春秋の選評掲載号に候補作6本を代表して掲載されたので、相対的に評価が高かったのだろう(この回の他の候補作は円城塔「これはペンです」、本谷有希子「ぬるい毒」など)。

短めの中編小説、あるいは長めの短編小説というくらいの分量だが、前半の浅草でのチンチロリンの話から、後半は場末の温泉街のヌード劇場へと物語の場所が移り変わり、ややロードムービーのような雰囲気も。社会の底辺を描きながら、決してアクの強い作風ではなく、むしろ筆はさらさらと群像の表面をなでるように進んでいく。

博打でイカサマをしようとして心臓発作で死んでしまうカズマ、ストリッパーのリッちゃん、その祖母で三味線弾きのルリ婆さん。人物描写も決して濃くはないが、一人一人が不思議な存在感を放つ。

「まずいスープ」や「すっぽん心中」でも感じたことだが、やや薄味で読後に物足りなさが残る一方、書き込もうとすればかえって凡作に落ちてしまいそうな気もする。

併録の「ぐらぐら一二」も、平凡なようで、どこかとらえどころのない不思議な小品。

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