扇田昭彦「こんな舞台を観てきた: 扇田昭彦の日本現代演劇五十年」
昨年急逝した扇田昭彦氏の劇評集。
前半は60年代から90年代前半に見た舞台を振り返って書いたもので、後半は近年までのリアルタイムの評。
批評というものは往々にして独特の言葉遣いに陥りがちで、特に劇評はAIが書いたのかというような定形表現のオンパレードも時々見かける。
著者の文章は丁寧で平易。脚本、演出から舞台美術、俳優の演技まで的確な描写で、その舞台を見ていない読者にも内容が伝わる。60年代以降の演劇を誰よりも多く見て、作り手からも最も信頼された書き手であり、形に残らない演劇というジャンルを記録した功績は計り知れない。この人がいなければ、アングラ演劇の多くは忘れ去られてしまっていたかもしれない。