不遇のまま夭逝した作家、佐藤泰志の遺作。函館市をモデルとした架空の海炭市を舞台に、人々の日常を綴る連作短編集。
炭鉱が閉鎖され、旧市街地が寂れ、郊外が開発され、変貌してゆく街が主人公。文章は粗削りで、決して洗練された小説とは言えないが、これを書かずにはいられなかった、これを書くために作家になったという切実な思いが感じられる。
佐藤は芥川賞候補に5回、三島賞候補に1回なりながら、41歳で自死を選んだ。村上春樹と同じ1949年生まれ。根底にある漠然とした喪失感や焦燥のようなものは共通しながら、表出の仕方は大きく異なっている。その不器用さが心に残る。