母親と二人暮らしのヒロシを中心に、中学3年の日常を抑制的な筆で綴る。登場人物はそれぞれに事情を抱えている。そこにドラマティックな解決は訪れない。誰もが悩みを抱えながら、それでも時は流れていく。
ヒロシの控えめな性格が、凡百の青春小説と違うリアリティと瑞々しさをこの物語に与えている。クラスメイトが何か事情を抱えていることに気付いても、ヒロシはそこに踏み込んでいくことができないし、無闇に踏み込むべきではないとも思っている。自己と他者の間に線を引き、決して分かった気にならない。優柔不断で主体性が無いようにも見えるヒロシは、自分を客観視しているからこそ、時に大胆に動く。
お喋りな母親を鬱陶しく思う気持ち。絵を描くのが好きだけど自分は何者にもなれないだろうという諦め。時間とともに全てが変わっていく焦燥感と一抹の切なさ。思春期の感情の揺れ動きが鮮やかに描かれている。