内省的な純文学作家の色川武大と、無頼の博打打ち作家、阿佐田哲也。二つの顔を生きた作家の第三の顔を妻の立場から綴る。
色川のいとこである著者は、早死にしそうな色川に「看とってあげなければ」との使命感で寄り添うことを決める。15歳上の「デブでハゲ」との結婚生活は、恋人や夫婦というより同志のような関係。
私小説的作品とされる直木賞受賞作「離婚」では、妻がわがままで奔放、いかにも生活力が無いように描かれているが、こちらを読むと、色川の変人振りと、生活全てを人に見て貰わなければ生きていけないという姿が印象に残る。亭主関白というより、大きな子ども。お嬢様育ちで家事が不得手だった妻に、料理から着替えまで全てを期待し、身体まで洗わせる。
ナルコレプシーを患い、1日6度の食事。さらに「来る者拒まず」と、毎日のように友人知人を家に連れて来る。一箇所に落ち着くことができず、荷造りは全て妻任せで頻繁に引っ越しを重ねる。
極度のコンプレックスから、他者に対して無類の優しさを見せていた作家が、唯一甘えた相手が妻だった。そして、その妻がいなくては、色川武大としての作品は生まれなかっただろう。本書を読むと、作家が阿佐田哲也ではなく色川武大として後世に残る作品を残したいと渇望し、「狂人日記」を書き上げた後も作品の構想を練っていたことが分かる。