警察からの突然の電話。家族を振り回してきた兄の急死。疎遠だった兄の後始末をつけるため、著者は縁もゆかりもない宮城県多賀城市を訪れる。
金の無心を繰り返す兄を著者は厄介者として遠ざけて生きてきた。遺品の処分、火葬、事務手続きに追われる5日間。うんざりしながらも、周囲の人々の気遣いに触れ、兄の最期の日々を知り、憎しみは消えていく。
離婚し、共依存のような関係だった母も亡くなり、小学生の息子と二人暮らし。体を壊して職を失い、兄の生活は行き詰まっていた。
ゴミ屋敷のようなアパートの片隅に、家族の古い写真が貼られていた。フィクションならベタな演出だが、兄の寂しさが生々しく伝わってくる。幸せな記憶があれば人は生きていける。どんなにみっともなくても。兄が破滅的な人生を送りながらも生きることから降りなかったことがその写真に滲む。