野田秀樹「21世紀を憂える戯曲集」
野田秀樹の戯曲は、言葉遊びから思いもかけぬ方向に物語が展開していくため要約が難しい。本書に収録された三本のうち、特に「オイル」は非常に多くのモチーフが重ね合わせられ、寓話を超えて神話的な重層性を持っている。
古代出雲=イズラモにマホメットならぬマホ女がいて、イスラムは出雲起源というトンデモ学説に、特攻、原爆、占領という日本の現代史が重なる。「アメリカでは、石油と書いて自由と読む」「八月に原爆を二つ落とされたから九月に飛行機を二機飛ばす、それが復讐法というものでしょう」。全編にわたって強烈な皮肉が満ち、古代から続く人間の争い、太平洋戦争、中東の紛争、9.11、全てがごちゃまぜとなって展開する。そこでは想像力は一方向に働くことが許されない。
続く二作は現代の暴力が主題。プロレスがやがてベトナムの戦場に二重写しになる「ロープ」。暴力が暴力を呼び、リングの上で戦争が始まる。ロープの向こうでは八百長だろうと、人殺しだろうと全てが許される。ではロープのこちらは? その答えが報復の日常化を描いた「THE BEE」だろう。