桂米朝「米朝ばなし」
落語に縁のある上方の土地を歩く。地図に道頓堀五座が書かれているなど、昔の面影がまだぎりぎり残っていた時代の文章で、二重に興味深い。
文中で現代として描かれている光景も既に過ぎ去った過去となっている。土地や時代背景を踏まえて落語に触れると、気の利いたサゲや言葉遊びの豊穣さに驚かされる。
一方で、それらの面白さが現代ではほとんど通じないだろうことが寂しくもある。「浅草と深草なら少々の違い」くらいならまだしも、「天神さんは紙幣がきらい」「夜のこぶは見逃しがならん」などぱっと理解できる人がどのくらいいるのだろう。