冒険王

平田オリザ「冒険王」

著者は16歳だった1979年、高校を休学(後に中退)して自転車で世界一周の旅に出た。イスタンブールの安宿でだらだらと喋り続けるバックパッカーたちの姿を描くこの作品には、その時の体験が反映されており、著者が自身の経験を直接題材とした唯一の戯曲でもある。1996年に初演された。

イランを通ってインドを目指す旅行者と、ヨーロッパへ向かう旅行者が交錯する街、イスタンブール。著者の戯曲の特徴でもある同時多発の会話がドミトリーの一室を舞台に繰り広げられる。それぞれの人生や国際情勢がかすかに垣間見える瞬間はあるが、会話の大半は旅先での刹那的なやりとりに過ぎない。

ひょうひょうとしていながらも、どこか繊細なバックパッカーたち。その姿に古典的な意味での「冒険」は感じられない。旅をしながらも、彼らの関心は外へは開いていない。

何かを伝えるためのせりふは無く、ただ自立的に動く会話だけがある。一見不毛で中味の無いように見える会話の中にこそ、人間の本質があることを鮮やかに示している。

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