かなり久しぶりに再読。村上春樹の長篇小説は要約が不可能か、要約すると意味を成さなくなるものが多いが、この作品は比較的あらすじが説明しやすい。
高校で初めて付き合った彼女を別れ際にひどく傷付けた「ぼく」は、むなしく孤独な二十代を送った後に理想的な家庭を得て事業でも成功する。そんなある日、小学生時代の初恋の人と再会して苦悩する。
こう書くと男目線の安っぽいドラマという印象だが、そこに描かれている、生きていく上で人をひどく傷つけてしまうことがある、生きているだけで人を傷つけ続けることがある、という苦しみには切実なものがある。最後まで読むと、再会した初恋の女性は、罪の意識で病んだ主人公が見た幻という解釈もできる。
村上春樹の小説に共通していることだが、主人公の心が揺れる理由は説明されない。主人公は相手の女性に、ただどうしようもなく惹きつけられ、取り返しの付かない場所に至ってしまう。人生にそういう瞬間があると思えるかどうかが、この作品に共感できるかどうかの境目だろう。
高校生の頃に初めて読んで、特に印象に残らなかった(不倫の話だから当然か)作品だが、作中に登場するデューク・エリントンの”Such Sweet Thunder”は当時繰り返し聴いた。