お初・徳兵衛(曽根崎心中)、お軽・勘平(仮名手本忠臣蔵)、お染・久松(新版歌祭文)、お半・長右衛門(桂川連理柵)……。
浄瑠璃などの近世文学に登場するカップルの名前は、大抵女性の名が先に語られる。それは物語の主人公が男であっても、究極的には女性の運命を描いていると多くの人が感じるからだろう。
社会の理不尽に絶え、時には運命に抗い、意地を通そうとする姿は男の登場人物以上に存在の光を放つ。その文楽の女たちについて、当代一の人形遣い、吉田簑助の芸談を挟みつつ、魅力を綴る山川静夫のエッセイ集。94年刊行本の新書版。
名手の遣う文楽の女形は、初心者目にもはっとするような色気や哀れさを見せる。
簑助の短いながら核心をついた芸談で、ちょっとした肩の動きや、目線の方向など、江戸時代から人形遣いが積み上げてきた工夫がよく分かる。
初心者でも楽しめる平易な文章でありながら、それぞれの演目を見たことがあればより理解が深まる内容。文楽ファン必読の一冊。