河竹登志夫「舞台の奥の日本 ―日本人の美意識」
舞台芸術を通じた日本文化論。
日本の舞台は「再現」では無く「示現」の芸術であり、劇的葛藤より、葛藤後の道行などを最大の見せ場とすることに象徴されるように、情感こそ全てに優先される。見得など絵面が重視され、殺人のシーンさえ、それでひとつの見せ物として完成させてしまう唯美的な芸能とも言える。
継承においても、西洋が常に新しい解釈、演出を求め、劇文学だけを古典として伝えてきたのに対し、日本では役者の肉体も含めた上演の総体が古典として守られてきた。
こうした差異の一方で、前近代、さらに古代まで遡れば芸能としての共通点も目立ち、どこから質的な分化が始まったのかがそれぞれの文化の本質か。
比較文化論というほどしっかりしたものではないが、歌舞伎の海外上演の経験が豊富な著者だけあって、気付かされる点が多い。