葭の渚

石牟礼道子「葭の渚」

石牟礼道子の自伝。といっても内容は「苦海浄土」を書くまでで、幼い頃の描写が多くを占める。

天草の海、零落した家、避病院と火葬場近くの新居、気がふれた祖母のおもかさま、早世した伯父、戦争、戦災孤児の少女との出会い……

悲惨な体験も著者の語りにはどこか光が差している。

人間の世界とそれを取り巻く自然の境に遊んだ少女は、やがて、おずおずと文字の世界に手を伸ばしていく。

著者の作品には、近代に対する疑問と人間への深い共感が通底している。「苦海浄土」は言うまでもないが、個人的には、むしろ幼少期の原風景を文学に昇華した「あやとりの記」や「椿の海の記」に衝撃を受けた。人間の生と自然の豊穣さについて、文学でしかできない記憶の仕方があると感じた。

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