クレイジー・ライク・アメリカ

イーサン・ウォッターズ「クレイジー・ライク・アメリカ 心の病はいかに輸出されたか」

「心の病」とその治療法は世界共通なのか。共同体や文化、時代に属するものではないのか。

著者は、香港での拒食症の流行や、日本における「うつ病」キャンペーンなど大きく四つの事例を挙げ、欧米流の精神医学の輸出の弊害を告発する。

欧米においてもボーア戦争や南北戦争など、時代によって心の反応は違っていた。現在、地域固有の症状は姿を消しつつあり、欧米の精神医学が、世界各地で苦しみに意味を与えていた物語や考え方から人々を切り離す嵐となっている。

内戦の続くスリランカでは、報復の連鎖に歯止めをかけていた「語らない文化」が、トラウマを語らせるPTSDの治療で崩れつつある。

統合失調症を巡っては、精神疾患を脳内の生化学的な要因で説明することが、かえって患者に対する厳しさを増し、別の種であるかのように社会や家庭から締め出す事に繋がっている。

悲しみに対する親和性が高く、長く「うつ病」の市場形成は不可能と考えられていた日本で病気の概念を広めるため、GSKを中心とした製薬会社は大規模なキャンペーンを張った。うつ病と自殺の関連を証明するための研究に資金を提供する一方、「心の風邪」というフレーズで薬へのハードルを下げていく。

トラウマを癒すための有意義な枠組みが他の文化圏にはないと信じる欧米の「物語」の輸出が、心の多様性を失わせていく。ポップなタイトルだが、久しぶりにすごいと思った一冊。

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