水谷竹秀「だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人」
バンコクにある日本企業のコールセンターで働く人々を取材したノンフィクション。
2000年代に入ってから、日本企業が人件費の節約のため、コールセンターをバンコクに移すケースが増えたという。そこで働くのは日本からタイに渡った30代、40代を中心とした男女。日本に居場所がなかったと語る彼らの半生を通じて、現代の日本社会の生きづらさが浮き彫りになる。
コールセンターの月給は3万バーツ(9万円)前後。日系企業の現地採用者の6割程度の賃金水準で、駐在員と比べると10分の1以下。日本語での業務のため、語学などの技能が身につくわけでもない。在留邦人の社会では底辺扱いされ、交流もほぼ断たれている。
日本で転職を重ねて行き詰まった人や、借金で夜逃げした家族、旅行でゴーゴーボーイにはまった女性、日本社会の偏見に悩まされたLGBTの男女など、さまざまな人々が日本を逃れ、バンコクのコールセンターで生計を立てている。
自ら望んで身を置いた人はほとんどいない、先行きの見えない厳しい環境。それでも、そこで語られているのは悲惨なだけの人生ではない。DJや起業家としてタイで新たな人生を踏み出した人々もおり、バンコクが日本社会のセーフティーネットになっている現状が明らかになる。
居場所は生まれ育った場所に見つけなくてもいい。生きていくための場所は一つじゃない。そんな単純なことが、日本にいると見えなくなる。