新編 越後三面山人記

田口洋美「新編 越後三面山人記」

ダムに沈んだ山人集落の記録。著者は新潟県北部、朝日連峰の山中にある三面集落に1985年の閉村直前に長期滞在し、16ミリフィルムでその生活を記録した。狩りの習俗から、採集、農耕、日常生活まで、村人の語りを中心に丁寧にまとめており、失われた山村の生活の貴重な証言となっている。

特に印象に残ったのが、狩猟・採集における細かなルール。クマ猟においては、技量、貢献度に拘わらず参加者で均等に肉を分け、くじで分配順を決めるなど、徹底して平等にこだわっている。個人の獲得物ではなく山からの恵みであるという思想がそこにはある。

マス突きでも、突いた者がそのまま得るのではなく、参加者に平等に分配される(3匹目までが分配対象となり、一人で4匹目を突くと優先的に得ることができるという細かなルールがある)。小さな共同体を長期にわたって存続させるためには競争の原理は適さないということだろう。歳月をかけて山と生きるための知恵が積み重ねられてきたことが分かる。

同時に、山川の資源を獲り(採り)すぎないよう、狩猟、採取、焼き畑や里山の管理などに細かな決まりや暗黙の了解があった。村人の「山を半分殺す」という言葉に表されているように、山と人が欲を半分ずつ殺すことによって、持続的な共生が可能となる。

こうした生活が高度経済成長期まで残っていた。生活や文化を語る時、大きなくくりで一般化してしまいそうになるが、日本列島に育まれてきた社会の多様さに改めて目を開かれる思い。

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