松本清張「疑惑」
保険金殺人の容疑者の悪女っぷりを紙面で書きたてた記者が、無罪判決が濃厚になる中で、復讐を恐れて追い込まれていく。推理小説というほどの仕掛けは無いが、ストーリーテリングの見事さで最後の一行まで緊張感が漂う。
併録の「不運な名前」は藤田組贋札事件についての歴史もの。小説の形をとっているが、薩長の対立や贋造技術についての考察が延々と続くマニアックな作品。「疑惑」と“悪そうな名前を持ったせいで犯人扱い”という共通点があるが、ジャンルとしては松本清張の両極ともいえるほど別の作品で、不思議な組み合わせ。