廃用身

久坂部羊「廃用身」

高齢者医療に携わる主人公の青年医師は、ある日、麻痺などで回復の見込みが無い部位を切断する「ケア」を思いつく。患者にとっては、不随意運動や痛みから解放され、周囲の人間にとっては介護の負担が軽減されるという狙いだが……

前半は医師の手記の形を取っており、現在の高齢者医療の問題点や、介護現場の悲惨さを綴っていて、まるでノンフィクションのよう。自力で動けなかった患者が、麻痺した足を切って身軽になったことで手のみで歩くようになったり、性格も明るくなるなど多くの変化がもたらされる。医師はその手法にのめり込み、デイケア病棟には手足の欠けた老人が増えていく。この前半部を読んで、多くの人は、優生思想的な気持ち悪さを感じつつ、明確な反論が出来ない複雑な感情を抱くのではないか。不要な物は捨てる、その思想は反論の余地を許さない。そして徹底した合理性は、不要な物を捨てないという選択肢を奪い無言の圧力となる。それは命の選別と地続きの思想ではないか。

医師の手法はやがてマスメディアの知るところとなり、週刊誌やワイドショーで激しいバッシングが始まる。その顚末を描く後半は、良くも悪くもフィクションの感じが強くなる。悪趣味と感じる人も多そうだが、自身も医師である著者らしい問題提起の書。

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