松井今朝子「吉原手引草」
吉原で起きた花魁失踪事件を巡って、関係者一人一人の語りで徐々に真実を明らかにしていく。ミステリータッチの物語の面白さもさることながら、タイトルに「手引草」とあるように、語りを通じて、吉原の仕組みから作法まで分かるよう書かれている構成がみごと。内儀、番頭、新造、幇間、芸者、女衒――といった立場の登場人物の口から語られるのは、初会や水揚げ、身請けなどまさに一から十まで。
07年上半期の直木賞受賞作。この回の候補作は今見ると良作ぞろい(桜庭一樹「赤朽葉家の伝説」、万城目学「鹿男あをによし」、森見登美彦「夜は短し歩けよ乙女」など)で、それらを圧倒的な評価で抑えただけはある傑作。