春、死なん

紗倉まな「春、死なん」

「高齢者の性」をテーマとして謳い、実際にそこが注目されてもいるが、描かれているのはもっと本質的な孤独、周囲の目と自我の摩擦の苦しみ。性は要素の一つに過ぎない。(高齢者の性を描いた作品はそもそも珍しくないし、本作の性に関する描写は実は少ない)

表題作は妻に先立たれた高齢男性の日常が綴られ、併録の「ははばなれ」は娘の視点で母との関係が描かれる。性欲、ジェンダー、家庭内での役割。誰もがままならないものを抱えて生きている。

控えめで丁寧な筆。天性の文才と言うより、よく本を読んでいることが伝わってくる。一方で、内面や人間関係の綾を描く観察眼と文章の構築力は鋭い。珍しい職業出身の作家だと、作品の背後に作家本人の経歴を読み取りたくなってしまうが、著者は想像力を足場にしている。作家としての大器を感じさせる。

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