カエアンの聖衣

バリントン・J・ベイリー「カエアンの聖衣」

SFの楽しみの一つが壮大なホラ話の中にどっぷり浸かることだろう。本作のホラのスケールは別格。スペースオペラの風呂敷に、尖ったアイデアを、世界観と物語のテンポを損なわないぎりぎりの量まで詰め込んだ。思考実験的な作品や、科学・数学の論理を突き詰めたハードSFに対し、こうしたSF作品を「ワイドスクリーン・バロック」というようだ。

服飾文化を極限まで発展させ、内面ではなく外面が人を形作るカエアン文明と、内面の個性を尊重するザイオード文明の対立が物語の軸となる。低周波の音波で攻撃し合う動植物の住む惑星に、特殊な防護スーツを着て降り立つ冒頭の場面から引き込まれる。

地球を出た人類は、無数の星へと生存圏を広げていくうちに、少しずつ生物としての形態と文化を変えていった。壮大な文明史を探る旅は大河小説の趣もある。

宇宙空間で生きられるよう身体改造を施した種族と、機械スーツを身体化した種族がそれぞれ地球時代の日本とロシアにルーツを持ち、宇宙で日露戦争を続けているなど、一つ一つの設定からいくらでもSF大作映画が生まれそう。スケールの大きさ、設定のユーモア、リーダビリティの高さ。三拍子そろった娯楽SFの傑作。外出できない閉塞感漂う日々には、こうした作品が一番元気が出る。

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