橋のない川

住井すゑ「橋のない川」

「先生、わしは、エッタやいわれるのが一番つらいネ。なんぼ自分でなおそう思うても、エッタはなおせまへん。先生、どねんしたらエッタがなおるか、教えとくなはれ」

「なア、同じ人間でもえらい違いや。天皇さんは、糞でも宝物にされなはるし、こちとらは、作った米さえ、くさいの、汚いのときらわれる」

明治時代末から大正時代にかけての被差別部落の暮らしを描き、1961~93年に計7部を刊行、800万部を超すベストセラーとなった大河小説。

奈良・大和盆地の小村、小森。日露戦争で父を失った誠太郎と孝二の兄弟は、しっかり者の祖母と優しい母とともに貧しいながらも温かな暮らしを送っていたが、学校や村外で理不尽な差別に直面する。やがて人々の間に平等意識が高まり、村の青年が中心となって全国水平社が結成される。

部落差別をテーマとした小説だが、何より家族の絆や山村の暮らしの生き生きとした描写が印象に残る。その姿は、生まれや育ちに関係なく人間は人間であるということを示している。新潮文庫版のあとがきで著者の住井すゑは「モデルは水平社宣言」と書いている。

部落をはじめとする差別問題に関しては昔から「寝た子を起こすな」という議論がある。そもそも寝ていないし、寝かけていたかもしれないが、今やネット社会で繰り返し起こされるようになってしまった。差別を乗り越える手段は知識と想像力以外にない。

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