中上健次「鳩どもの家」
中上健次の初期作3本。薬でラリった予備校生の無為な日々を綴る「灰色のコカコーラ」は、村上龍の「限りなく透明に近いブルー」を連想させるが、村上龍が中上のこの作品の影響を受けたようだ。
こうした初期の作品から路地を舞台にした一連の作品群へと達したのが不思議なような気もする一方、最後の「五錠は母のため、後の五錠は兄のため、姉のためにも三錠――」とドローランを飲む場面からは、やはり中上は最初から書くべきものを持っていた作家という印象を受ける。
ベトナムに向かう黒人米兵との5日間を綴る「日本語について」も後年の中上とは違い、どことなく大江健三郎的な雰囲気。
表題作「鳩どもの家」は、初期作品に共通する暴力的、破滅的な衝動を持った高校生が主人公だが、中上の作品の多くに影を落とす兄の視点に近く、その後の作品の萌芽が見える。