中島京子「イトウの恋」
明治の日本を旅し「日本奥地紀行」を記したイザベラ・バード。その通訳、伊藤亀吉(実在の人物は鶴吉)の恋という、よくまあそんなマニアックな所に目をつけてフィクションの題材にしようと思ったものだというのが第一印象。名著「日本奥地紀行」そのものとは比ぶべくもないけど、予想以上に面白かった。伊藤が晩年に記した手記が見つかったという設定で、明治と現代の男女の物語が巧みに進められていく。一回り以上年の離れた異国人にひかれていく少年の焦燥感は、知識への渇望と重なって、切なくも瑞々しい。