カート・ヴォネガット・ジュニア「スローターハウス5」
ドレスデン空襲を中心に据えながら、物語はずっとその周囲を飛び回る。
米国兵のビリー・ピルグリムは、時間を超えて人生の断片を行き来しながら生涯を送る。欧州戦線から、戦後の穏やかな日々、時間という概念を超越した宇宙人が住むトラルファマドール星まで、場面は脈絡無く飛んでいく。
ビリーにとっては、過去どころか、未来も変えることはできない。過去も未来も等価であり、時間を超えた次元から見下ろせば、ある時には死んでいる人も、別の時には生きている。
安易に反戦文学というカテゴリーに入れることがためらわれる小説だけど、一方には絶望が、一方には癒しがあり、フィクションでしかなしえない現実との向き合い方を示している。