有吉佐和子「開幕ベルは華やかに」
「一の糸」や「紀ノ川」といった作品の一方で、こうしたミステリー風の作品も書いてしまう有吉佐和子の多才さに驚かされる。といってもミステリー要素はおまけで、あくまで商業演劇の舞台裏を描いた人間ドラマ。東竹、松宝、中村勘十郎、八重垣光子と、モデルがはっきりしているのも面白い。大御所ふたり、勘十郎と光子は舞台裏でバチバチやりあいながら、芸の上ではお互いを信頼している。その描写が緊張感あふれ、胸を打つ。有吉佐和子は芯のある人を描かせると比類ない。演劇ファンにお勧めの一冊。