黒い雨

井伏鱒二「黒い雨」

大部分が日記体で、小説として奇をてらったところは一切無く、だからこそ読み物としては忍耐がいる(原典となる日記があるので、一般的な小説とはそもそも成り立ちが違うけど)。文章は、明るくも、暗くもない。人物描写もフラットで、(表面的には)何の思想も無い。そこに地獄が描かれているのに物語の展開は劇的とはほど遠く、単調ですらある。だからこそ、原爆の惨禍は地獄を見せて終わったのではなく、地獄の中でも日常は続いていくということを強く感じさせる。

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