小松左京の「日本アパッチ族」に続いて、開高健がアパッチ族を題材に書いた小説「日本三文オペラ」。小松作品のような架空の日本ではなく、現実のアパッチ族のことが細かく記されている。
ルンペンのフクスケがスカウトされ、アパッチ部落を訪れるところから物語は始まる。といっても壮大なドラマが描かれるわけではない。著者の後の作品にもつながるルポルタージュ的な描写で、フクスケの視点を通じて人々の暮らしが描かれる。錆びた鉄屑やモツ焼きの匂いが漂ってきそうな細密な描写は、まさに著者の真骨頂。
大阪砲兵工廠跡に隣接して自然発生的に生まれたアパッチ部落は、猥雑で生命力に満ち、一種の理想の共同体として描かれている。来るものを拒まず、どこよりも自由で、分業制が発達し、障害の有無も男女の性差も些細なことになってしまう懐の深さ。押しつけられるモラルはそこにはない。チームを組んで工廠跡に侵入し、鉄屑を掘り当て換金する。取り締まろうとする警察との攻防が痛快だ。
こんな土地が都会のど真ん中にあったということに驚かされる。それは大阪という都市の豊かさ、多様性を包含する歴史の厚みに他ならない。