現在、大阪ビジネスパークとしてビルが立ち並ぶ一帯から大阪城公園にかけては、戦前は大阪砲兵工廠としてアジア最大規模の軍需工場があった土地。終戦前日の空襲で壊滅し、戦後は長く焼け跡のまま放置されていたが、そこから屑鉄を盗む人々が現れた。集落と独自の文化を作り、膨大なスクラップを発掘・転売して生計を立てた人々は「アパッチ族」と呼ばれた。その野放図なエネルギーに想を得た作品。小松左京の長編デビュー作。
物語の舞台は、戦後の「逆コース」が現実よりも進んだ仮想の日本。反社会的な人間の追放地として隔離されたスクラップの山に暮らす人々が、屑鉄を食料とするようになり、やがてアパッチ族として、人ならざる存在になっていく。身体まで鋼鉄化したアパッチは追放地の外に出て日本社会を揺るがし、生存権をかけて日本政府・軍と衝突するようになる。
荒唐無稽な設定ながら、アパッチ族の登場による政治や経済の動揺が、社会諷刺を交えて執拗に書き込まれているのはまさに著者ならでは。
「七年半前、私たち、ふつうの日本人だった。だけど、あなたたち、私たちのこと、アパッチと呼んだ。そう呼ぶのは、私たちにそうレッテルはりたかったからだ。私たち、あなたたちがそうあってほしいと思うようになった」
アパッチは社会の中に生まれた異物だが、それを生み出すのは社会自身でもある。この台詞を今から半世紀以上前の作品(しかももとは妻の娯楽のために書き始めたという小説)で、さらっと書いてしまうのだから、さすがの慧眼。