カブールの園

宮内悠介「カブールの園」

芥川賞候補になった表題作は、幼い頃に受けたいじめや差別の記憶と、過干渉な母との関係に悩む日系女性が主人公。タイトルからアフガニスタンの話かと思ったら、「カブールの園」とは女性が受けているセラピーのことを指す言葉で、作品の舞台は米国西海岸。現実のカブールは作中に登場しない。

大戦中に収容所に入れられた祖母からの母娘3代の人生を軸に、さまざまな要素を短編の中に織り込んでいる。一つ一つの要素を深く掘り下げることはなく、その踏み込みの甘さはリアルに感じられる一方、作品全体にやや散漫な印象も与えている。

主人公の女性はプログラマーで、クラウド上で作曲・編曲するソフトウェアの開発を主導している。さまざまな立場の人々が作り上げた音楽のパーツを自由に組み合わせ、無限の音楽を奏でる。その理念はどこか日系3世である主人公の人生と、作者自身の創作手法に重なる。

併録の「半地下」も、プロレスラーの姉との関係を軸にさまざまな要素が詰め込まれた作品。日本語と英語のはざまで悩む青年が主人公で、私小説の雰囲気がある。芥川賞と直木賞に交互にノミネートされる、文学性と大衆性を併せ持った作家の原点と言える作品だろう。

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