家郷の訓

宮本常一「家郷の訓」

宮本常一の代表作の一つ。地域社会で子供がどう育てられたのか、故郷・周防大島での、幼少期の自らの経験をもとに綴った克明な生活誌。一種の自伝ともいえ、ただ静的で、因習にとらわれているだけではなかった村の生活が鮮やかに記されている。

人間が一歩一歩、暮らしを良くしようと続けてきた歩みの中に、子供の世界も位置づけられる。文章に人間と自然への敬意が満ちていて、どこか、石牟礼道子の小説に描かれる“公害以前の水俣”に通じるものがある。

「文字を持たざる世界にあって文字はこの上もなく尊いものと考えられた。(中略)私の祖父は私に文字のかかれてある紙で絶対に鼻をかんではならぬ、また尻をふいてはならぬと戒めた。私の出郷の折に私に言いきかせて下さったことは、正直にせよということと文字を大切にせよということであった」

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