きなりの雲

石田千「きなりの雲」

編み物教室で講師を務める40代の女性を主人公とした恋愛小説。別れた恋人と再び縁がつながっていく日々が柔らかな筆で綴られる。

最初から最後まで良い人しか出てこない。恋人に捨てられた主人公の女性は深く悩んでいるが、周囲の人々との関係の中で自然と癒されていく。切実な人生の悩みを小説に託したというよりは、こんなふうに悩んでみたいという願望に近い。編み物に向き合うときのように、ほどよい悩みは人生の幸せの一つなのだから。

この妄想に共感して、読みながらあたたかな気持ちになる人は多いだろうし、一方で、同族嫌悪のような苛立ちを感じる人もいそう。

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