任俠の世界に生まれ、父を失って歌舞伎役者の弟子となった男の一代記。
故郷の長崎を離れ、上方歌舞伎の名門、丹波屋の花井半二郎に入門した主人公の喜久雄は、半二郎の一人息子、俊介とともに女形の才能を開花させる。跡継ぎと目された俊介が失踪したことで、喜久雄が半二郎の名跡を継ぐことになり、家と血と芸が複雑に絡み合った世界の中で運命は思わぬ方向に転び始める。芸に打ち込めば打ち込むほど、光を浴びれば浴びるほど、喜久雄の周りには悲劇が起こる。
江戸歌舞伎ではなく、上方、それも女形の役者を主人公に据えたことで物語に深みが生まれた。丹波屋は設定だけ見れば成駒家がモデルだが、物語そのものは創作。全編通じて情感豊かな語り口調の文体で綴られ、その背景に昭和から平成へと時代の移り変わりも描かれる。
「悪人」のような小説から、芸の世界を舞台とした骨太の物語まで。芥川賞を受賞した「パークライフ」を初めて読んだときは、著者がここまで幅広い作品を生み出すとは思いもしなかった。