別役実「壊れた風景/象」
別役実の代表作のひとつ「象」。病床で原爆症に苦しみつつも、背中に残るケロイドを人々に見せびらかすことを夢見る男。原爆の悲惨さを扱った作品である以上に、圧倒的な暴力の被害を受けた時、人がどこにアイデンティティを求めて生きていくかの問題を浮き彫りにしている。
男の繰り返す、「(奴らは)背中のケロイドよりも俺の眼をのぞきこもうとするんだ」「どうして俺の眼を見ようとするんだろう」という悲痛な叫びからは、本人も気づかないままにアイデンティティが損なわれてしまった悲惨な現実を感じる。
セリフに、あれ、それ、と指示代名詞を多用して人間の無責任さ、矮小さを描いた「壊れた風景」も印象的。