深夜特急5 トルコ・ギリシャ・地中海

沢木耕太郎「深夜特急5 トルコ・ギリシャ・地中海」

五巻はトルコからギリシャへ。アジアが終わり、同時に旅の終わりが近づいている――あるいはもうほぼ終わってしまったという一抹の寂しさが文章に滲む。

「旅は人生に似ている。以前私がそんな言葉を眼にしたら、書いた人物を軽蔑しただろう。(中略)しかし、いま、私もまた、旅は人生に似ているという気がしはじめている。たぶん、本当に旅は人生に似ているのだ。どちらも何かを失うことなしに前に進むことはできない……」

「旅がもし本当に人生に似ているものなら、旅には旅の生涯というものがあるのかもしれない。人の一生に幼年期があり、少年期があり、青年期があり、壮年期があり、老年期があるように、長い旅にもそれに似た移り変わりがあるのかもしれない。私の旅はたぶん青年期を終えつつあるのだ。何を経験しても新鮮で、どんな些細なことでも心を震わせていた時期はすでに終っていたのだ。そのかわりに、辿ってきた土地の記憶だけが鮮明になってくる」

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