沢木耕太郎「旅する力―深夜特急ノート」
自伝的エッセイであり、「深夜特急」のこぼれ話を集めた1冊。本編から20年以上を経た08年の刊。どうして旅に目覚めたのかから、初めての一人旅、旅に出る前の仕事、なぜ「深夜特急」を書いたのか――と、あらゆる質問に答えるように、誠実に丁寧に自分を語っている。
著者は駆け出しのノンフィクションライターだった26歳の時にアジア横断の旅に出た。本書の中でも繰り返し旅と年齢について書いている。それは若い時期に旅をしろ、という単純な話ではなく、年齢に応じた旅しか人にはできないということ。人生において経験と知識は不可逆であり、人の感受性は変化すれば戻らない。その意味で20代の旅も40代の旅も同じようにかけがえがない。でも、だからこそ、後回しにしては取り返しが付かない。
最近よく思い出すのが、シリアの安宿で出会った、定年退職後にアジア横断の1人旅をしていると話していた男性のこと。同じような旅をしていても、当時21歳の自分とは全く違う景色が見えていたのだろう。年を重ね、感受性の変わった身でもう一度旅がしてみたい。そう思うと、年を取るのも悪くないように思える。