「一席、おつきあいをねがいます。らちもない無頼のお話で、暢気なだけがご景物であります」
「ほれてかよえば千里も一里、ふられてかえればまた千里。――ぐれてのたくりゃ一里も千里、足を洗うにまた千里」
「グレにもいろいろありましてな。やあさま、これは大企業労働者です。ひも、これは個人商店勤務の未組織労働者。しろもく、ばくち専科で、ま、技術屋ですな。くうぱつ、口先三寸だけでいくらかの銭をかすめとっちゃう。(中略)のたくり、何もしないンで、ただのたくって、風のまにまに生きている連中で、これは多いンです。私はこののたくりの専門家で大看板でありまして、本業というものがない。何をして生きているのか、自分でもわからない。何にもしないというわけでもないンですけれどね、何かしてるンですが、はんちくなことしかやらないんンで」
闇市が残る戦後まもない時代を舞台に、噺家のような軽妙な語り口で綴られる猥雑な恋愛模様。「ぐれはまちどり」「とんずらふねふね」「三文おけら」「すけこまえれじい」「ふくちんれでい」「泥ゥころばんざい」「往きはよいよい」の7編。
コミカルな中に哀歓たっぷり。色川武大/阿佐田哲也の真骨頂とも言える短編集。