永い言い訳

西川美和「永い言い訳」

バス事故で妻を亡くした小説家と、幼い子供二人と共に残されたトラック運転手。妻同士が親友だった二人は遺族として初めて対面する。冷え切った夫婦関係の中、妻の死を悲しむことができなかった小説家は、長距離の仕事で家を空けることの多いトラック運転手の家に通い、幼い子供二人の面倒をみるようになる。

振り回されながらも、子供たちに必要とされることで、小説家はこれまで経験したことのなかった充実感と幸福を知る。しかし、家庭を顧みることが無かった男が、ふとしたことから父性に目覚めていくだけの物語ではない。ままごとのような関係にはやがて限界が訪れ、小説家は自分自身の人生と向き合うことを迫られる。

映画監督の著者だが、映画と小説では手法を使い分けており、今作は「ゆれる」同様、一人称多視点の筆で綴られる。同名映画のノベライズではなく、小説が先行して書かれているが、内面描写であっても不思議と映像的に感じられる。かりそめの“家族”に酔う小説家と、それを懐疑的な目で見る知人、現実に向き合おうとする子供。それらの視点の上を一筋の時間が流れていく。

 

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