香港の警察組織を舞台とした連作短編で、「社会派」と「本格派」というミステリーの二つの潮流を高度に融合させた傑作。
物語は2013年に始まり、反英暴動のあった1967年まで、１章ごとに過去に遡っていく。“天眼”の異名を持ち、型破りな操作を行う刑事クワンの半生を描き、そこに英国と中国の間で翻弄された香港の現代史が織り込まれる。英国の犬から正義の象徴へ、そして再び保身を最優先する官僚機構へと信頼を失っていく香港警察の盛衰を通じて正義の所在が問われる。
各章が単独で優れた警察サスペンスとして成立しており、全体としてみれば社会派の顔を持つ。警察モノは普段ほとんど手に取らないのだけど、久しぶりに読んで圧倒された。日本では社会派小説はすっかり低調になってしまったが、変化のただ中にある国では、これから続々と傑作が生まれるのかもしれない。