ナイン・ストーリーズ

J.D.サリンジャー「ナイン・ストーリーズ」

柴田元幸訳。サリンジャーの訳としてはフラットすぎるかもしれないけど、そのぶん、小説としての構成や人物造形の妙が際立つ。

結局多くの作品は残さなかった作家だが、この作品集を読むと、無限に作品を書けたのではないかと思える。巻頭に掲げられた禅の公案「両手を叩く音は知る、ならば片手を叩く音は?」。本来なら聞き得ない片手の音を追究するか、関係性を表す両手の音に注目するか、解釈は難しいが、「ライ麦畑」もこの作品集も、その問いに対するサリンジャーなりの試みなのだと思う。

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