白洲正子「能の物語」
謡曲を翻案ではなく、忠実に小説のスタイルに置き換えている。これができるのも能を深く理解した著者だからこそ。
舞台での間などもかなり意識した文章で、現代語にしたことで話の骨格がはっきりし、日本の物語の原型が伺えて興味深い。教訓やすっきりする結末なんてないし、亡者が出てきても、最後に成仏せずに終わるものも多い。生きている以上、人は多くの悔いや執着を抱えていく、そのことに対する冷徹とも、ある意味温かいとも言えるまなざし。
夢幻能は亡者と出会う話が基本だが、幽霊の出てくる近代以降の小説よりはるかにリアルに感じられるのが不思議。