宮田珠己「おかしなジパング図版帖 -モンタヌスが描いた驚異の王国」
「十七世紀のオランダ人が見た日本」が非常に面白かったので、そこに登場する本の挿絵を多数収録したこの本も買ってしまった。モンタヌスの著書の挿絵を中心に、丁寧な観察と壮大な勘違いが混ざり合った当時の日本像を紹介している。
モンタヌスが著した「東インド会社遣日使節紀行(日本誌)」は17世紀のオランダで広く読まれ、後世の西欧における日本像にも大きな影響を与えたとされる。しかし、モンタヌス自身は日本を訪れたことはなく、著書の内容は東インド会社員の手記などに依っていた。
見たことがないものを想像するのは難しい。伝聞情報をもとに挿絵を描く際、情報の空白を補うかのようにアラブやインド、中国といった西欧にとっての既知の地域の要素が入り込み、なんとも奇妙な世界が生まれた。
胸の正面に幾つもの小さい顔が付けられた千手観音(頭上に冠のように複数の顔が付いている姿がうまく伝わらなかったとみられる)や、豊満な胸を持つ大仏像(柔らかな造形から女神像と勘違いされたのだろう)、立位体前屈のように両手をだらりと下げてのお辞儀、明らかにヒンドゥー教のイメージと混同している獣面の神々など、伝言ゲームの難しさを思わせるイラストの数々に思わず笑ってしまう。
モンタヌス以外にも、実際に日本を訪れたケンペルや、シーボルトなどの絵も収録され、日本の姿が17~19世紀にどのように西欧に紹介されてきたのかがよく分かる。ただ、詳細な解説や時代背景の説明が書かれているわけではないので、「十七世紀のオランダ人が見た日本」と併せて読む方がいい。
モンタヌスの「日本誌」は、国立国会図書館のデジタルコレクションで1925年に出版された邦訳本を読むことが出来るほか、ネットで検索しても、こうしたサイトなどで様々なイラストを見ることができる。